「…クリスマスは二人で過ごしませんか?」


その言葉を聞いて、望美は不意に立ち止まった。


その顔は見る見る紅潮していく。


「え…っと…」


「ダメ…ですか?」


「ダメなわけないよ!」


寂しそうに見つめてくる譲に、望美は思わず大声を上げてしまった。


恥ずかしくて、慌てて口を噤む。






二人の関係が変化して、初めてのクリスマス。

譲と二人きりで過ごしたい…と、望美もそう思っていた。






「先輩?」


「…私も同じこと考えてた」


望美ははにかみ、譲の腕に抱きついた。










嬉しくて、心臓が破裂してしまいそうで。

望美は、クリスマスが楽しみで仕方なかった。
















Call


















「譲君、機嫌直してよ〜」


不機嫌そうにボールやら泡だて器やらの器具を用意する譲を、望美は必死でなだめる。








クリスマス当日。

譲と二人で過ごす予定だったのだが。




      姫君は皆のものだろう?




ヒノエや弁慶の策略によって、皆でパーティーをすることになってしまった。








こうして譲と二人、料理班になったわけだが。

望美としては皆でパーティーをするのはいいのだが、
望美を独り占めできると思っていた譲はすっかりやさぐれてしまったのだ。






「…なんか懐かしいね」


ボールに入れたクリームを泡立てながら、望美はぼそりと呟いた。


「昔は、よく一緒にケーキ作ったよね。
譲君はすごく上手に出来るのに、私は全然うまく出来なくて…」


「そうですね」


「思えば、譲君てあの頃からしっかりしてたよね〜」


しみじみと、望美は幼い頃の譲を思い出す。


昔から成績が良くて、真面目で。


唯一変わったことといえば、望美への呼び名と言葉使いだ。


「…名前で呼んでくれなくなったよね」


「え…?」


「ずっと『先輩』って呼んでる。昔は名前で呼んでくれたのに…」


少し頬を膨らませ、望美は譲の顔を覗き込む。


「名前で呼んでくれないの?」






恋人になったのに。






望美は、恨めしそうに譲のその瞳をじーっと見つめる。


照れくさそうに顔をそらした譲は、眼鏡を直すと咳払いをした。


「先輩は先輩ですから」


「卒業してもずっと? 年は縮まらないのに…」


悲しみを含んだ瞳で望美は譲を見つめ続ける。


「せんぱ…」


「あっ…」


よそ見をしていた望美は手元を狂わせ、クリームを辺りに散布させてしまった。


七部ほど泡立っていたクリームは、壁から流れ落ちることもなくその場に留まっている。


「う〜もったいない…」


軽く肩を落とす望美の姿に、譲は思わず笑ってしまった。


望美の鼻の頭にはクリームがついてしまっているのだが、
本人はそれに全く気づいていないのだ。


「笑うことないでしょ〜!」


「す…すみません」


でも…と、譲は望美の肩に手を置くと、
その鼻の頭についていたクリームをぺろりと舐め取った。


「…っ…」


恥ずかしさと驚きで、望美は目をパチパチとさせる。


「クリーム、ついてました」


悪戯気に微笑み、譲は何事もなかったかのように辺りに散ったクリームを布巾で拭き取る。


その姿がとっても余裕いっぱいで。


なんだか悔しくて、望美は再び頬を膨らませる。


「譲君…っ」


「あ、先輩。さっきの話ですけど…」


顔を赤らめて子供のように頬を膨らませる望美の耳元に唇を寄せると、譲はそっと呟いた。






      先輩が俺の奥さんになってくれたら、きっと名前で呼ぶと思います。






ふわりと微笑み、そして。

見上げた望美の唇は、温かくて優しい口付けで塞がれた。













望美の頬がケーキに乗せるイチゴよりも真っ赤に見えたのは、
きっとライトのせいではなくて。


譲は満足そうに微笑んだ。














いつか、望美さん…と呼べる、その時まで。

暖かくて、甘いクリスマス        





















お久しぶり〜な譲君です☆
てか、なんちゃってヒノエの台詞が…(笑)うん。こんなんですね。
譲君て大人っぽいんだけど、すごく子供っぽくて…そんな感じを出したかったんですが…。
出来なかった…(死)難しかったよ…。
で、結局こんなんになってしまいました(汗)


















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